「人生って本当に難しいよ。明日何があるかなんて誰にも分からないんだから。」
俺はあるブラジル人と知り合いました。
彼の名は、ロドリゴ。25歳。
ブラジル人にしては珍しく英語が話せる。というのも、彼はアメリカに住んでいたことがあって、今ではポルトガル語・スペイン語・英語の3ヶ国語が話せるらしい。
「ヨーロッパに5ヶ月滞在するつもりだよ。お金がないから、仕事と安い部屋を探してるんだ。今決まっていることは、ワールドカップ期間中にドイツにいることだけだよ。」」
ロドリゴは他の旅行者とは少し違う目的でフランクフルトに来ていた。
彼はとっても明るくてフレンドリーなブラジル人で、俺とはすぐに気が合った。
海賊ひで:「ブラジルはW杯、行けそうかい?」
ロドリゴ:「みんなブラジルが優勝するとか言ってるけどね。俺はそうは思わないな。ブラジルは期待された大会では必ずコケる。1978年がいい例だよ。」
海賊ひで:「なるほどね。2002年もブラジルは良くないと言われながら優勝したしね。」
なんていう当たり前の話から、
海賊ひで:「こないだ会った日本人がさ。ずっと中東を旅してきたらしいんだけど、イスラエルが安全とか言うんだよ。」
ロドリゴ:「そんなわけないやろ!」
海賊ひで:「それがさ。銃を持ったお巡りさんがいっぱいいて、ガードしててくれてるからだって。」
ロドリゴ:「逆に危ないやんけ(笑)」
海賊ひで:「物価も安くて最高とか言うんだけどね。命まで安いんじゃたまったもんじゃないよ(笑)」
ロドリゴ:「(爆)」
・・・まぁブラックジョークな話もありつつ、
海賊ひで:「今日の昼飯はどうする?」
ロドリゴ:「う〜んマクドナルドかなぁ。」
海賊ひで:「マクドナルドかよ! ここドイツだぜ!?」
ロドリゴ:「他に安い店分かんないしさ。おとといも昨日もマクドナルドだったよ。」
海賊ひで:「探せばドネル・ケバブの店とか、タイカレーの店とか安いとこあるんだぜ〜。実はマクドナルドを愛してるんじゃないの?(笑)」
っていう会話の流れで、結局俺もマックへゴー!(笑)
海賊ひで:「ところで、彼女はいるのか?」
ロドリゴ:「いないよ。ブラジルにワイフがいるからな。子供もいる。」
な、なんと!
妻子持ちでヨーロッパを一人旅!?
う〜ん。ワケあり感が出てきた。
ロドリゴ:「今は別居しててさ。あいつはギャーギャーうるさいんだ。なにやってんだ、なんでそんなことをするんだ、っていちいち騒いでさ。あんまりワイフの話はしたくないよ。」
海賊ひで:「じゃあ他にもっと面白い話を聞かせてくれよ。」
ロドリゴ:「そうだな…。コロンビアに住んでたときに、いきなり家に飛び込んできた男に殺されそうになったこととか。」
海賊ひで:「…はっ? なんだよそれ! 南米はそんなクレイジーなヤツばっかりなのかよ。」
ロドリゴ:「たまにはいるんだよ。そうやって実際に死んでしまった友達もいるし。」
海賊ひで:「マジかよ。。。ショックじゃなかったのか?」
ロドリゴ:「ショックだったさ! それで一人で住むのが怖くなって、今のワイフと結婚することにしたんだ。若すぎた決断だったよ。21歳だったからな。」
・・・いや、若すぎた決断って!
いきなり理由もなく殺されそうになったんだよ???
何十歳になっても怖すぎるだろ…。
ロドリゴ:「そんなワケだから、ケンカばっかりしてるけど今の奥さんのことも忘れられなくてな。もし結婚するなら、30過ぎてからがオススメだぜ!」
(ま、まぁ心の片隅に留めとくわ。。。)
ロドリゴ:「ビジネスも大変だったんだぜ。俺は昔、アメリカから香水を輸入してブラジルで売る商売をしてたんだ。これがバカみたいに儲かってな。1億以上の資産を作り上げたんだ。」
海賊ひで:「今はもう辞めちゃったのか?」
ロドリゴ:「周りのヤツに狙われるようになってな。あんまり儲からなくなったし。昔は1億持ってたけど、今はスッテンテンだよ。所詮、金なんてそんなもんだ。いつ、誰かに全部奪われてもおかしくない。」
"一寸先は闇"ってか。
ブラジルという国は、良くも悪くも世界でもっとも資本主義的な国だ。
楽園でもあり、地獄でもある。
キレイな女がイヤってほど歩いているトロピカルビーチ。それはまさに楽園だ。
その一方では。
道端で車にはねられた男が病院に運び込まれたとき、金がないと分かったら別の病院へたらい回しにされる。
何もブラジルでは珍しいことではない。当たり前に存在する地獄なのだ。
ロドリゴ:「ブラジル政府には、貧しい者を助けようなんて考えはこれっぽっちもないからな。ヨーロッパや日本は素晴らしいと思うよ。」
さらにロドリゴは続ける。
ロドリゴ:「俺も若い頃は金が欲しくて仕方なかった。もし俺が1ユーロ持っていれば、10ユーロで買えるものが欲しくなる。10ユーロ手に入れたら、今度は100ユーロの物が欲しくなる。100ユーロ稼いだら、今度は1000ユーロ…。その繰り返しだ。こんなのが幸せなはずがない。」
海賊ひで:「俺もそう思うよ。人間って、本当は1ユーロで買える幸せがあることに気づかないだけなんだよな。」
俺が言ったことはきれいごとに聞こえるかもしれないが、本当に俺の本心だ。
高級ブランドのスーツも、プール付きのバカでかい家も、マーチが300台ぐらい買えるような車も、
俺を幸せにするには物足りない。
ふと、俺はロドリゴにこんなことを聞いてみたくなった。
海賊ひで:「お前はワイフのことで悩み、殺されそうになったこともある。なのになんでそんなに楽しそうなんだ? 他の日本人たちはお前のことを、世界一明るくて気さくなヤツだって言ってるぜ。アイツら、お前がそんな過去を持ってるって知ったら、驚いて寝込んじまうぞ?」
ロドリゴ:「だってさ。殺されるかも…なんて思ってたら、本当に殺されそうだろ? 毎日ハッピーなことばかり考えてれば、本当にハッピーなことが起こるんだぜ。」
う〜む。
"笑う門には福来る"ってか。
ロドリゴが言ったことはそんなに難しいことじゃない。
しかし・・・、
「自分はこのまま生きてちゃダメだ。何かを変えなければ、ダメになってしまう・・・。」
そんなことを考えたことがないだろうか?
ちなみに俺はある。
ロドリゴの言葉を借りれば、そんな風に考えて生きてたら本当にダメになっちゃうかもしれない。考えるだけ時間のムダだ。
そんな時間があるなら、ハッピーになる方法をいっぱい考えればいい。
俺たちはそんな話を、”マック”でしながら、(笑)
ロドリゴ:「んじゃ、俺はちょっとブラジルにいるワイフに電話してくるから。またホテルでな。」
と言って別れた。
…しかしその夜、彼は帰って来なかった。
次の日の朝食で、俺は食堂に座っているロドリゴを見つけた。
なんか少し元気がなさそうなので、
「ハング・オーバー(二日酔い)か?」って聞いたら、
ロドリゴ:「昨日、ワイフに電話したんだ。」
あぁ、そういえばそうだったな。
ロドリゴ:「Everything is finished.」
・・・。
俺はそれ以上何も聞かなかった。
本当は子供の親権はどうなったとか気になることもあったが、普段バカみたいに明るいロドリゴが元気のない様子だったので、俺は何も聞けなかった。
ロドリゴはそのままずーーーっと遠い目をしていた。
俺は、黙々と朝飯に没頭…。
・・・すると突然、
ロドリゴ:「オイ。あのブロンドガール。めっちゃキレイじゃねーか? ヨーロッパの女は90%が美人なんだよな〜。最高だよ。」
なんて言い始めた。
俺は少しホッとして、
海賊ひで:「それはお前が美人の女しか見てねーからだろ! お前はハッピーな物しか見ないじゃん!(笑)」
って言ったら、
ロドリゴはいつもどおりの大爆笑だった。


