ブラジル代表は試合の流れ、心理的要因をコントロールするのが巧い。
5年くらい前になるだろうか。
日本がブラジルと親善試合をしたとき、ブラジルは開始直後からとても90分間続けられないような激しいプレスを仕掛けてきた。そして名波がボールを奪われ、そのままゴールを決められたのを強烈に覚えている。相手がブラジルということで、まだ動きの硬直が解けていない日本をあざ笑うかのようだった。
あのとき、あのゴールを決めたブラジルの選手。
その名を"アモローゾ"という。
トヨタカップ決勝
サンパウロvsリヴァプール(1−0)
開始20分までは、お互いにリスクを冒さない慎重な戦いが続く。だが突然、サンパウロはそのギアをハイトップにチェンジした。リヴァプール陣内に3人が入ってフォアチェック。全員が連動してパスコースを切っていき、イヤらしく効果的にボールを追い回して相手のミスを誘う。高い位置でボールを奪い、速攻を仕掛けようとするチーム意図があった。
そんな中でもリヴァプールの攻撃を組み立てた、"シャビ・アロンソ"はさすがだったが、サンパウロの戦略は徐々に効果を産み出していく。
ボールを奪ったら、余計なパスをつながず一直線にゴールに向かう。グラウンダーのパスで美しくつなぐリバプールに対し、サンパウロは足の甲に乗せて浮かすパスを多く使い、フィールドを立体的に攻めていく。リヴァプールのDFも、グラウンダーにこだわらない南米スタイルのパスにやや戸惑っていたのかもしれない。
そんな展開から、この試合ピッチを激しく動き回った"ミネイロ"が抜け出してゴールを決めた。パス&ゴーで裏へ走り出し、DFライン上で急ストップ。そしてパスが出ると同時にスタートしてオフサイドをかいくぐることに成功。シュートも落ち着いて、右に蹴るようなフェイントから左へ流し込む。アッサリ決めたように見えるが、じつは幾多もの駆け引きを乗り越えた"ミネイロ"の2列目からの飛び出しだった。
1点を取ってからのサンパウロは明らかにディフェンシブな試合運びを披露する。前半動き回って消耗した体力をここで回復した。これはただの守り固めではない。ディフェンシブな選手交代をしていないので、もしもゴールを決められても、いつでも攻撃に切り替えることができるのだ。
逆にサンパウロに振り回されたリヴァプール。焦って攻撃に出て、後半は攻め疲れがあったように見えた。選手交代をすることなく、チームとしての運動量を変えていくことで、常に試合の流れを自分たちでコントロールしたサンパウロ。日本代表も大いに学ぶところがあったのではないか。
ブラジルには、ずる賢いプレーという意味合いの「マリーシア」という言葉がある。ユニフォームを引っ張ったり、相手を挑発したり・・・、そんなマリーシアは初心者のマリーシアに過ぎないのかもしれない。今日の決勝の試合運びがサンパウロの計算通りに動いたものだとしたら・・・。背中が寒くなるのを感じる。これをマリーシアと言わずになんと呼べばいいのか。
試合の"流れ"を作り出すのは、整備された戦術でもフォーメーションでもない。それは心理的要因をあやつる能力。まさに真のマリーシア。
上戸彩は「なんだか南米っぽくなかった」となかなか鋭いコメントを出していたが、実は今日のサンパウロの戦いこそが真の南米スタイルなのだろう。
後半、必死に攻めるリヴァプールに"勝たせてあげたい"という気持ちが生まれた。だがそれは叶わなかった。
そして試合が終わり、少し冷静になった俺は考えた。
この負けも今後のトヨタカップのためにはいいのかな、と。
ヨーロッパではトヨタカップを軽視する傾向があり、チャンピオンズリーグを最高峰と位置づけている。もし今回リヴァプールが勝ってしまえば、その風向きは一段と強くなっただろう。
「やっぱり、ヨーロッパじゃん」と。
負けたチームを含め、今回のトヨタカップについて。
第一回の世界クラブ選手権として、とても良かったと思う。
俺はこの1週間、地球的スポーツであるサッカーの縮図を見ていたようで、とても楽しかった。
ここから歴史は生まれていく。
次の歴史には、日本のチームが名を刻めるように願って・・・。


