「待ちから攻めへ」
実はこれ、以前お世話になっていた会社のコピー文句です。
オシム監督の取材は、むずかしい作業らしい。
天邪鬼な性格だから、記者の質問を煙に巻くことなんて朝メシ前。
そして何よりも、オシム監督は人間としての引き出しが余りに多いものだから、思慮の浅いことを発言すればアッサリと一蹴されてしまう。
もしも記者会見でうかつな質問をすれば、大勢の同業者の前で恥を晒すことになるわけだ。
これは、フリーの記者・ライターにとってはイヤなこと。
あらゆる新聞・雑誌の編集者が顔をならべる中で、サッカーに対する視点の未熟さ・勉強不足を暴露されてしまう。
もちろん人間ならミスや思い違いもあるし、それ自体はたいしたことではないと思うが、とにかく皆に与えるイメージは悪い。
そのためオシム監督の記者会見では、みんな質問がノドまで出掛かりながらも、二の足を踏んでしまうらしい。
さて、去年11月15日、日本代表vsサウジアラビアの試合後会見のことだ。(ちなみに僕はこのとき欧州にいたので、又聞きの話です)
やはりフリーランス勢が二の足を踏む中、果敢にオシム監督に噛みつく人物がいた。
サッカーファンには悪名高き、夕刊フジの久保武司記者だ。
サッカー番組にも出ている有名人だけど、僕も久保さんの文章を読んで気持ちが悪くなったことは数え切れない。コメントをすり替えて事実をねじまげたり、批判というよりは悪意を感じることもある。
まさに猛毒ライター。
とは言うものの、お行儀のいいライター陣が黙り込む中、たった一騎で突撃をはかる姿はカッコ良くもある。
だが、惜しいのはこの発言だ。
久保氏「今後も巻には先発のチャンスを与えるか?」
オシム監督「巻が駄目だというのか?」
久保氏「駄目というわけではないが、ほかにももっといいFWがいると思うが。」
オシム監督「具体名を出してくれ」
久保氏「播戸。」
播戸。あちゃ〜〜。少し会場内がざわめいた。
それもそのはず、播戸は今回、ケガで日本代表召集を辞退しているのだ。オシム監督が代表に呼んでいないわけではない。
ここで勝負はついてしまった。
対等に話をするのをやめ、久保さんを教育するかのような口調に変わるオシム監督。
オシム監督「ナシとリンゴを比べて、どちらがいい果物かということか?」
播戸と巻という、タイプの違うFWを同じ土俵で論じる久保さんを皮肉って切り返す。ここからはオシム監督のペースだった。
負けた久保さんには、情報の仕込みが足りなかった。
オシム監督の言葉を借りれば、
「ライオンに追われたウサギが逃げ出す時に、肉離れをしますか? 要は準備が足らないのです。」
播戸がケガをしているという情報の準備が足らなかった、つまりはそういうことだ。
しかし、久保さんの攻撃的な姿勢はリスペクトすべき部分もある。
そもそも遠慮のない質問を徹底的にぶつける海外ジャーナリストに比べ、日本のジャーナリストは非常に大人しい。
逆を言えば誠実でもあるのだけど。
囲み取材にしても、会見にしても、
まるで腫れ物に触れるかのように会話をしているような感じがする。
これでは対等の立場でインタビューなど、できるはずもない。
失敗しても、そこから学ぶことはあるはず。
友達の小学校の先生から聞いた話では、最近の子供の親は、
「子どもに順位をつけないでください」
「選手リレーっておかしくないですか?」
「絶対に悪口を言わせないで下さい」
「バカって言われたから、これっていじめですよね」
「いじめたやつは出席させないでください」
なんて要求を突きつけてくるらしい。
それを聞いて、僕はこう思った。
「そういう社会に晒されるから、子供は成長していくんじゃねーか」と。
でもその次の瞬間…。
オイオイ。そーいうお前だって、社会で失敗することから逃げてねーのかい? 失敗から学ぶチャンスを放棄してないのかい?
と、自問自答した。
まったく…ダメな大人だ。
なんだか、オシム監督にぶつかってみたくなってきました。
記者会見に参加して、質問攻めにしたいです。
そこでタイトルの言葉が出てくるわけですよ。「待ちから攻めへ」
大恥かいて成長したいです。


