今回の遠征については、
「アジアカップで見せた日本のポゼッションサッカーが、ヨーロッパにも通用するのか否か」
「アタッキングサードから決定的チャンスをいかにして作り出すか」
この2つを主なテーマとして観戦していた。
日本ごときサッカー後進国を相手に、引いて守ろうなんて国はヨーロッパではあり得ない。それはオーストリアも例外ではなく、序盤から日本DFラインに激しいプレスを仕掛けてきた。
「芸術的で落ち着いたモーツァルトの国」もなんのその。血相変えてボールを追い回すオーストリアは野性味にあふれていた。
というわけでまず一つ目、
「日本のスタイルが同じようにヨーロッパにも通じるか?」という点では、激しく向かってくるオーストリアに対して日本のパスサッカーで戦えたことで、方向性の正しさを確認できたと思う。
これは大きな収穫だった。
ただし二つ目、アタッキングサードから最後の崩しの部分については……決定機を外したとはいえ、チャンスそのものが少なかったのは間違いない。
なぜか?
その質問にはとても一つの回答では答えられそうもないので、
ここからは試合を見ていて気づいたことを箇条書き。
【田中達也はDFの体勢を見ていない?】
カメルーン戦のとき、DFが真後ろに来ているわけでもないのに焦ってダイレクトでヒールパスをして失敗した場面があった。
今日も、ゴール前でDFと1対1になったとき、DFの体勢は半身で外側を向いていたにも関わらず、そのままたいしたフェイントもなく外側に抜きにかかった。もちろん、シュートはDFにカットされた。
DFの体が外側を向いているのだから、外側に抜けば寄せられるのは当たり前だ。ここでDFの背中側となる中央へ切り返して、左足のシュートに持っていけば、もっとDFを振り切りやすかったはずだ。
新潟のエジミウソン、広島のウェズレイなど、
得点をたくさん挙げているストライカーは、相手の体勢・利き足などあらゆる条件から判断して、相手の反応しにくい場所を狙って意識的にドリブル突破をしている。これは先日の取材で確認済み。
田中達也には、まだそういった駆け引きが備わっていないのではないか。
【2トップが孤立、受け手になれない】
根本的に、アジアカップで最後のシュートチャンスが作れなかった原因と、今回のオーストリア戦でシュートチャンスが作れなかった原因は、別のところにあると僕は考えている。
なぜなら今日の試合、ビルドアップに2トップが参加する場面は極めて少なかったからだ。矢野にも田中にも、縦方向の上下動が足りず、ボールがなかなか収まらない。
そして2トップが孤立したことで中盤との間には大きなスペースができ、ビルドアップの段階で2トップにボールが入らないので、DFのポジショニングを揺らすことはほとんどできなかった。
オーストリアDFは、ボールに絡まない矢野と田中を見ていれば良いだけ。
これでは整備されたラインを突破することはできない。
後半、矢野に代わって巻が入ったことにより、チャンスが格段に増えている。もちろん他の条件もあるので一概にはいえないけど、巻はビルドアップの基点となる、受け手の動きをたくさん見せていた。
いなくなって初めて気付く、巻の仕事の大きさ。
【追いかけっこを放棄しなかった、松井】
後半途中から入った松井は、自分に求められているものを良く理解して、それを実行に移した。ドリブルでボールをペナルティエリア付近まで運ぶという、今までは誰もできなかったことをやってのけた。
そういえば、
「ドリブルでDFと並走する」なんてサッカーでは当たり前のシーンを、日本代表ではしばらく見てなかったような気もする。
みんな切り返しちゃうもんなぁ…。追いかけっこを放棄して。
そういう意味では、今回松井がチームに与えた影響は決して小さくはない。
良い選手は自分のプレーひとつで、周りの選手にも影響を与えることができる。まさしく今の松井がそれだ。
【攻めるディフェンス、稲本】
相手の出方を待ってカットに行くのではなく、自分主導で相手のボールを奪いにいく。稲本のディフェンスは日本人離れしたもので、これもまた松井同様、周囲に大きな影響を与えるものだった。
【チーム状況を良く考えている中村x中村】
俊輔、憲剛ともに、今日はシュートへの意識、チャンスメークへの意識が高かったように思う。チームに足りないものを良く熟知しつつ、今まで出来ていたこともキッチリやる、そういう意識の高さを感じた。
特に俊輔はMVP級の働きを見せた。
動きの量、質、そしてパスさばき。すべてが素晴らしかった。
正直、前からガンガンくるオーストリアに日本のパスサッカーが通じたと言ってみても、俊輔がいなくなったらどうなるかは分からない。それほど良い働きだった。
さて、次の対戦相手であるスイスは「欧州10強の中に入る」とオシムが語る通り、オーストリアよりも遥かに強敵だ。
去年僕は、オーストリアのインスブルクで行われたオーストリアvsスイスの親善試合に行ってきたけど、実力はスイスのほうが圧倒的に上。個々のレベルも組織力も洗練された動きを見せていた。
スイスはドイツW杯で無失点のままベスト16に輝いたように、守備が堅く、組織的なプレーを得意とする。次の試合で日本の課題となっている決定的チャンスを作り出すことは、オーストリア戦以上に難しくなるだろう。


