つい先日、俺はバーミンガムからやってきた一人の男と出会った。彼は、プレミアリーグのクラブ「アストン・ビラ」のサポーターだと言う。
うちの家族はみんな、アストン・ビラを愛しているんだよ。
彼はそう言い切る。そして、「君の好きなJリーグのチームは何て言うんだい?」と聞いてきたので、俺が「ジュビロ磐田だよ。でも別にそこがホームタウンってわけじゃない。選手やチームの雰囲気が好きなんだ。」と答えると、彼は少し驚いていた。
そして彼はEメールをチェックし始めると、突然驚いて飛び上がり、それが終わるとこらえ切れない笑いを噛み殺すように笑い始めた。
「どうかしたの?」と聞くと、
「信じられないよ! FAカップで僕の彼女のチームが、アストン・ビラと対戦することになったんだ! 彼女のチームは2部のチームだから、普段リーグで対戦することはないんだ。本当に驚いたよ。でも試合の日は僕はまだ日本にいる予定なんだよね。観たかったなぁ・・・。」
FAカップとは、イングランド版天皇杯のようなものだ。
・・・というのは本家に失礼か。むしろ、天皇杯がFAカップをお手本に作られたと言うほうが正しい。FAカップや天皇杯の最大の特徴は、プロ・アマの区別なく頂点を目指すトーナメント戦であることだ。だから普段はあり得ない、2部のチームとトップのチームが対戦することも、組み合わせによってはあり得てしまうわけだ。
FAカップの歴史は非常に古く、もう100年以上も続いているのだ。欧州の多くの国でも国内のカップ戦は軽視される傾向にあるが、サッカーの母国イングランドに関しては全くの例外と言っていいだろう。
心底わくわくしている彼を見ながら、「こりゃ楽しいやつに出会えたなぁ・・・」と思った俺はさらに話を続ける。
「ところで今シーズン、マンUはいまいちだよね?」と聞くと、
「I hate United! ざまあみろだよ!」と何とも過激な答えが返ってきた。
「マンチェスターに住んでいる人はみんな、マンチェスター・シティが好きなんだよ。」
「え? じゃあマンUのファンは誰がやってるの?」
「外国人とか・・・旅行者とか。あとはただのお祭り好きだね。マンUファンにとっては、音楽でもサッカーでも何でもいいんだよ。」
どうやらイングランドのサッカーファンはみんなマンUが嫌いらしい。
「もしマンUファンがいれば、その人は今はチェルシーのファンになってるだろうね。」
な〜るほど。しかし・・・、
・・・ジツハオレ、まんちぇすたー・ゆないてっど、ケッコウスキデス。
言えなかった…。
でも少しだけ食い下がり、「マンUにはエキサイティングな選手がいっぱいいるよね?」と聞くと、「ルーニーとか、ファンニステルローイとかね! 僕も大好きな選手だよ。」と言うので少しほっとした。どうやらマンUの選手が嫌いなわけではなく、金でチームを作るやり方が嫌いらしいのだ。嫌いなのは選手個人ではなく、そのスピリット。事実、彼らは憎きマンU選手が出場しているイングランドナショナルチームを応援しているのだから。
日本のコアな野球ファンが巨人を嫌うのと似ているのかもしれない。
まぁそれでもマンUは、レアルよりはマシだと思うが・・・。
・・・という彼との出会いは偶然か必然か。
俺はマンチェスターに、「FCユナイテッド」というチームが新しく作られたというニュースを知った。ビジネスに染まったマンUに別れを告げたサポーターが奮起し、サッカーを本当に愛する新しいクラブを立ち上げたのだ。非常に熱い話だが、スタートは10部リーグからだと言うから大変だ。果たしてトップクラブに肩を並べるのに何年かかるのだろうか。
彼としゃべっていると、日本人とイギリス人のクラブに対する根本的な考え方の違いが何となく分かってきた。
FCユナイテッドの設立構想、反骨スピリットにとても共感したので、俺は遠い日本からだけど彼らを応援したいと思う。
イギリスを旅行したら、ぜひとも行ってみたい場所ができた。


