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落合啓士(ブラインドサッカー日本代表)×清水英斗対談

こんにちは。サッカーライターの清水英斗です。

先月、ブラインドサッカー日本代表の落合啓士さん(通称『おっちー』)と僕の対談をメールマガジンで配信しました。その模様をブログ用にピックアップしてお伝えしたいと思います。
※注:メールマガジン『しみマガ』は5月末で配信を休止しています

ブラインドサッカーとは、GKを含めた5対5で行うフットサルのような競技。その大きな特徴は、4人のフィールドプレーヤーがアイマスクをして、視覚を遮断した状態でプレーすることです。視覚障害者のスポーツではありますが、GKは晴眼者(視覚に障害のない者)が務めますし、また、晴眼者もアイマスクなどの目隠しをすればフィールドで同じようにプレーを体験することができます。 ※2012/6/13修正

ボールの中には鈴のような音の鳴るものが入っており、転がると“シャカシャカ”と音がします。フィールドプレーヤーはこの音でボールの位置を認識するわけです。さらにピッチ外のサイドフェンス沿いには監督、相手のゴール裏に『コーラー』と呼ばれるコーチングを行う人を置きます。GKが守備側の指示、監督が中盤の指示、コーラーは「右45度ゴール!」といった攻撃側の指示を出します。これらのサポートを駆使して、目の見えないフィールドプレーヤーがプレーを行うわけです。 ※2012/6/13修正

僕がおっちーさんと対談したいと思ったのは、サッカーサポーター集団『ちょんまげ隊』が実施している被災地ボランティアの活動で一緒に宮城県へ行ったとき、車で隣りに座っていたおっちーさんの何気ない一言がきっかけでした。

「メッシはたぶん、ブラインドサッカーがうまいと思うんだよね」

メッシは素早く、そして細かくドリブルしているにもかかわらず、ボールを見ようとして顔が下がる時間がすごく少ない選手です。そしてブラインドサッカーは、そもそもボールを全く見ずにコントロールしています。

おっちーさんのコントロールを実際に見ましたが、「実は目が見えているんじゃないのか?!」と思えるほど、スムーズにドリブルするのです。実際、訪れた小学校の生徒たちの前でおっちーさんがドリブルのデモンストレーションをしていると、みんな「ウソだ!あれ絶対見えてるよ!」と口々に言っていたくらい(笑)。

ボールを見ないでドリブルできるという意味で、僕はおっちーさんとメッシの間に、何らかの共通点のようなものをビビッと感じました。

ブラサカには、サッカーに通じるヒントが詰まっているんじゃないか!?

もっと言えば……、

メッシを人工的に育てるエッセンスがあるのでは!?

そこでおっちーさんに取材を申し込んだわけですが、めちゃくちゃ面白かったですね。期待した通りの技術論ももちろんありましたが、その他にもサッカーについて、人間について、深く語り合いました。

-中略-

清水 サッカーはもともとやっていたんですか?

落合 うん。小学校のころはまだ目が見えていて、視力も1.2あったから、キャプテン翼を見てサッカーやりたいと思って、小学校で6年間やっていた。だけど高学年くらいから、夜は目が見えないとかそういう症状が出始めたので、中学校の部活では無理になった。昼休みとか放課後に、友達と蹴るくらい。サッカー自体は、高校までは休み時間に友達と蹴ったり。

清水 高校のときは、まだ目が見えてたんですか?

落合 0.5くらいで、視野もちょっと狭かったけど、普通にボールは見えて、ロングフィードはちょっと見えないけど、短いパスとかだったら全然見えていたよ。

清水 なるほど。

落合 サッカーはもうずっと好きだね。目が悪くなって、できなくなっても。Jリーグ始まったときも見ていたし。

清水 完全に目が見えなくなったのって、18歳のころでしたっけ?

落合 完全に見えなくなったのはもうちょっと後なんだけど、視覚障害者として生きていくと決めたのが18歳のころ。日常生活で白杖を持たないと歩くのが難しくなって。そのときは人影とかも見えてたし、今よりも視力はあったと思う。ただ、視野もだいぶ狭まっていたので、杖がないと日常で歩くときに人とぶつかったりするし、杖を持とうと決めたのが18歳のときだった。

清水 それから7年後、まさか再びサッカーに出会うとは思わなかったですよね。

落合 まさかまさかですよ。ブラインドサッカー自体を、まさか自分がやるとは思わなかった。目が見えないのにサッカーなんて。

清水 その間、サッカーに対する気持ちはどうだったんですか? 好きでやってたものができなくなって、サッカーが嫌いになったりしませんでした? サッカーの話を聞きたくなくなったり、試合を見るのが嫌になったり。

落合 サッカーに対しては、そういうのはなかったね。キャプテン翼とかも、漫画で読むのが厳しくなってきた後はテレビで見たりとか、Jリーグだったらテレビ中継やってるから、元旦は天皇杯見たりとかするし。別に自分ができないからサッカー嫌いになるとか、そういうのはなかったね。そのぶん、親とか周りに対しての風当たりはきつかったけど。

清水 親に対しての風当たりがきついというのは、どういうことですか?

落合 いや…、きついというか、ひどい。手をあげたりとか。親父と一回ケンカしたし。母親にも何回か手をあげたりしたし。言葉の暴言はしょっちゅうだね。高1の頃なんかは友達と遊びに行くのにお金が必要でしょ。バイトも目をあまり使わなくていいのを探してたけど、なかなかそういうところは見つからず、バイトの面接も落ちちゃったりとか。
で、お金が必要だから「ちょうだい」って親に言って、親が「ない」とか言うと、「俺はバイトしたくても、あんたらのせいでバイトできないんだから、そのぶん金出せ」と。それでお金もらったりとか。その後、高2のころからは寿司屋でバイトしてたんだけど。
それから18歳でかなり目が見えなくなったとき、寿司屋で就職したんだけど、仕込みのときに目を酷使するので、たぶん、それで視力がガタンと落ちちゃったんですよ。0.5ぐらいあったのが、0.0以下まで下がっちゃって。それから寿司屋も辞めて盲学校に行ったんですけど、もうバイトもできないし、生活費を親にせびるようになって、同じように目のことを言ってお金をせびったりして。いちばんひどいのは「こんな目に生みやがって」みたいなことを。しょっちゅうでした。

清水 今の温和なおっちーさんからは想像もつかないですね。

落合 そう。僕は性格が180度変わったんですよ。中学校のころから反抗期で、最初に視力が落ちてサッカーができなくなったときに、サッカー自体は嫌いにならなかったけど、サッカーができないストレスで親に当たるようになったり、自分のやりたいことがどんどんできなくなるストレスを全部親にぶつけたりとか。不良グループに入ってたり。そうやって反抗していた。

清水 視力を失うタイミングと、一般的な反抗期がちょうど一緒だったんですね。

落合 そう。常に親とか何かに当たっていないとやってらんない、みたいな。

清水 おっちーさんって、こうやって接してるとすごく穏やかだけど、そういう感情の起伏が激しい一面もあったんですね。

落合 そう。ブラインドサッカー日本代表になった当時でも、僕なんかはトラブルメーカーでしたから(笑)。昔のとげとげしい性格が抜けてなかったんですよ。日本代表というものに思い入れがあって、みんなの代表だから期待も背負わなきゃいけないのに、チームがヌルい感じで、言い方は悪いけど視覚障害者の仲良しクラブみたいな。当初はそういう印象が自分の中にあったんですよ。ブラインドサッカーの代表に対して。だから僕はすごく檄を飛ばして、周りとのぶつかり合いが結構あって。
まあ今思えば、ミスをしたくてミスしてる奴はいないけど、たとえばクリアできるボールにちょっと触っちゃってコーナーキックにしちゃったりとか、そういうのに対して僕が味方にガーッと文句を言ったりとか。それで2005年に代表を外されてますからね。そこから少しずつ改心し始めた。
日の丸を背負うのって、それなりの覚悟とか、ある程度の犠牲があるべきだとそれは今でも思ってるんだけど、その当時はかなり強かったね。例えば、なでしこジャパンが佐々木則夫さんになる前の監督(大橋浩司氏)は「練習中に笑うな」みたいに言っていたらしいけど、それはすごく分かる。僕も当時はそういう考えだったし。でもやっぱり、佐々木さんになってチームが笑うようになって、それが結果につながるのもあるし、僕も良い雰囲気でやるのは意識してる。
ただやっぱり、仲良くしてるのと、ダラダラしてるのは違うじゃないですか?

清水 全然違いますね。

落合 だから当時はダラダラしてるように見えちゃってた、というのが正直あるかな。

清水 僕の考えですけど、その周りに厳しく当たっていた頃のとげとげしいおっちーさんでも、個人競技の選手だったらそれで良かったと思うんです。

落合 あー、そうそうそう。

清水 だけどサッカーって団体で、みんなでやるものですよね。そうすると、個人がそれぞれ自分の正しいと思うものを押し通しても、必ずしもチームの結果にはつながらない。しかもサッカーは他の団体スポーツに比べても、ピッチ内で選手が自由に、即興的に判断しなければならないことが多いですから。余計にチームワークが大事になる。そこがサッカーの難しいところでもあるし、面白いところでもあるんですよね。

落合 そうそう。そうなんだよね。僕は中学校3年間、柔道部だったんですよ。サッカーできなくなって、たまたま柔道部に勧誘されて、別にいいかみたいな感じで入った。柔道は団体戦もあるけど、基本は個人競技なんで、自分のそういうストイックさが結果についてくるから面白かったし、小学校とかでサッカーやってても、そんなに周りと意見のぶつかり合いをしないし、監督の言う通りにやって、あとは自分の好きなようにやって。それから大人になってブラインドサッカーをやるようになって、団体スポーツの難しさを痛感したね。

清水 大きな出会いでしたね。

落合 ブラインドサッカーに出会わなければ、人格的には昔のままだったと思うよ。

清水 今も、“ジャックナイフおっちー”のままだった可能性が(笑)。

落合 そうなんすよ(笑)。

―中略―

清水 僕の印象では、障害者スポーツって、障害のある人が誰でも楽しめるように、ハンデをカバーしてくれるような優しいやり方をするイメージがあったんですよ。だけどブラサカって完全に逆で、すごく障害者に厳しいルールじゃないですか? 視力のない状態で目隠ししてサッカーするなんて、普通のサッカーよりも遥かに難しい。体の当たりも激しいし。でも、そこがブラサカの面白いところなのかなって。

落合 あー、そうだね。他の障害者スポーツ、特に球技って、安全面を確保するルールがどんどん採用されているんですよ。たとえばお互いの接触がないように、野球でいえば、走塁ベースと守備ベースがそれぞれ違ってたりする。

清水 お互いがぶつからないようにルールで守っているわけですね。

落合 他のスポーツでも、お互いのコートが別々に分かれていることが多くて、コンタクトプレーはブラインドサッカーだけ。視覚障害者会からは、危ないとか、怖いとか、そういう声がすごく多いんだけど、今言ったように逆の発想というか、今まででは『かごの中の鳥』のような感覚だったのが、外の一般世界と同じような感覚で自由になれるのは大きい。
ブラインドサッカーをプレーしているときって、自分の目が見えている錯覚に陥るんですよ。実際には見えていないんだけど、自分の頭の中で映像を常にイメージするから、声が聞こえてくると、暗闇の中にポンと人形が現れるような感じで。で、ボールの音が聞こえてきたらそこにボールがポンと現れて。コートの大きさのイメージもある程度はできているから、完全に自分の目が見えているような錯覚になるんです。

清水 それは日常生活では得られない感覚ですか?

落合 得られないものだね。自分が視覚障害者というのを、忘れられる時間だと僕は思っている。街中を歩いていても杖を持っているし、今日もそうだけど、周りから「どこ行かれるんですか?」って聞いてくれて「どこどこです」「じゃあ一緒に行きますよ」とかあるし。それに街中で走ると危ないから、走れないじゃないですか。だけどブラサカでは杖も持たないし、全力で走れるし、それこそボールも蹴るし。どこにも視覚障害者の要素がない。

清水 たしかに。ブラサカは僕らも目隠しして対戦できますよね。僕も最近フットサルの前とかに、目を閉じてドリブルの練習をやっているんですよ。すごく難しいけど、目が見えているときにはある程度アバウトだったボールタッチの一つ一つが、目を閉じてやってみると、足とボールが触れる瞬間にクッキリと自分の中に染み込むような、そういう感覚があって新鮮ですよ。

―中略―

落合 これはブラインドサッカーだけじゃないかもしれないけど、スポーツって、仲間との絆っていうか、信頼関係がより深くなる。ブラインドサッカーって唯一、視覚障害者のスポーツの中で、目が見える人も選手として大会に出られるわけですよ。他の種目はガイドとか伴走者とかコーチになっちゃうけど、ブラインドサッカーのGKは晴眼者で、完全に選手として出場する。
この前、アジアパラリンピックで面白かったのがね、基本的に全部障害者が出る大会なので、メンバーの一覧表には出場種目や名前と一緒に、障害の等級を書く欄があるんですよ。で、ブラインドサッカーのGKを見たら、障害:なし、等級:なし、って書いてあって(笑)。みんなで「オイ、“なし”って書いてあるの、ここだけだぞ!」って笑ってた。

清水 なるほど(笑)。ブラサカみたいな競技は本当に珍しいんですね~。

落合 そういう意味では障害者も晴眼者も同じ目線でやっていけるのは、一つの楽しみなのかなって思う。

清水 僕はそれをさっき、「ブラサカは障害者に厳しいスポーツ」と表現しましたけど、厳しいっていうのは、そこに本来の自分が余すことなく開放されている感じでもあると思うんですよね。

落合 うん、そうだね。

清水 つまり、障害を持つことに対する感覚が変わるきっかけとして、ブラサカがあるとしたら、すごく面白いんじゃないかと。

落合 あ~! そうかもしんないね。そういう意味では日本代表も関係ないよね。

清水 波及する効果はたくさんあると思うんです。例えばちょっと内気だった子が、ブラサカをやってみたら、めっちゃしゃべるようになるとか(笑)。しゃべらなきゃ成り立たないスポーツですから。

落合 そうだよね。それ面白い。僕は科学的にもっと根拠が強くなったら大々的に言っていこうと思っていたことがあるんだけど、ブラインドサッカーをやることによって視覚障害者としてのスキル、人としてのスキルが上がると思っていて。例えば聴覚、ブラインドサッカーをやることによって必要な音だけを拾っていくわけですよ。街中を歩いているときに、いろいろな音が鳴っている中で必要な音を瞬時に拾っていく能力が上がると思うし。
あとはブラインドサッカーってすごく走るわけでしょ。それが怖さをすごく払拭できると思う。そうすると街中で歩くスピードもちょっと上がると思うんだよ。あとは、とっさに避ける反射神経っていうのかな、例えば何かにぶつかったときも、今まではガーン!ってぶつかっていたかもしれないけど、ブラインドサッカーやるようになって、当たる瞬間にクッと半身になるっていうのかな。

清水 なるほど。ぶつかった衝撃を逃がすわけですね。

落合 結局は当たるんだけどね。衝撃をやわらげられる。変な話、僕は普通に歩いていても、家までだったら杖がなくても歩けるんだよね。例えば道にデコボコがあって、ここにデコボコがあるからここが曲がり角だ、みたいなことも分かるし。他にも入り口がちょっとへこんでいるとか、それは足の感覚で分かるんで。
そういう感覚も、ブラインドサッカーをやって僕は研ぎ澄まされているんじゃないかなと思う。視覚障害者としてのスキルが上がるから、日常も生活しやすくなる。それをもうちょっと調べて、勉強したらいろんな人に言っていこうかなと思う。だからブラインドサッカーやろうよ、みたいな。


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なでしこジャパン特集

サッカーライター清水英斗がお送りする、
『しみマガ』第4号、なでしこジャパン特集【前編】をお届けしました。
(すでにバックナンバーとなっております)。


そのテーマは、
●なでしこジャパンには決定的な弱点がある!


W杯でも現れていた、なでしこジャパンの弱点とは何か。
イラストを交えて、ズバッと解説しました。


そして今週、8月31日(水)に配信予定の、


なでしこジャパン特集【後編】のテーマは、


●女子サッカーの深層


女子力という言葉でもてはやされる、なでしこジャパンですが、


そもそも女子がサッカーをする上で、必ず現れる”問題点”が存在します。
それをみなさんは、認識しているでしょうか? ちなみに体の話ではありません。メンタルの話です。


今、日本女子サッカーの頂点に立っている彼女たちは、それを乗り越えた存在と言えるでしょう。
彼女たちは何を乗り越える必要があったのか?


なでしこリーグなど、女子サッカーの監督に取材をして構成しているので、リアルな話です。
他のメディアではここまで書かないと思います。


9月1日から始まるオリンピック予選の前に読んでおくと、より深く女子サッカーを楽しめるはずです。


どうぞよろしく!
『しみマガ』はこちらから!

日韓戦レビュー【後半】

『しみマガ』第3号 
日韓戦レビュー後半は、本日21時配信です!
テーマは、


●1トップ李忠成のポジショニング考察
 →ザックとの間にある認識のズレをピックアップ


●テストマッチ病の克服
 →日本代表にありがちな癖、育成年代でもあると思われる課題について


●清武弘嗣のオンリーワン能力
 →彼はいったい何が優れた選手なのか? 分析しました


●清武弘嗣を生んだ環境
 →彼を育てた背景について。たくさんの人の想いが、今の清武を作っています


以上、4本立てです!
どうぞよろしく~
しみマガはこちらから!
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