「I walk in the stadium! So, let's take a cab with me!」
私はスタジアムで歩きますから、タクシーに一緒に乗ろう???
レバークーゼン駅で話しかけた美しい女性は、その外見とは裏腹にとんちんかんな答えを返してきた。
僕が他の街のスタジアムに行くときは、場所の下調べをせずに現地で人に聞いて行くことにしている。敢えてそうするのは現地の人と交流を持ちたいから、などというジャーナリストらしい理由ではない。正直に言おう。めんどくさいからだ。
レバークーゼンで行われた日本代表ドイツ戦の場合も同様だった。ところがこの日は少し勝手が違い、話しかけた女性から意味不明な回答をいただいてしまった。仕方がないので、
「OK!OK! Danke!」
とやり過ごして、地図を探して歩き出そうとした瞬間、
その女性はふたたび僕を呼びとめ、タクシーに乗れと促してきた。しかも、
「お金は私が払うから」と言う。
この時点でやっと僕は気付いた。
「I walk in the stadium」ではない。「I work in the stadium」だったのだ。
彼女は普段はケルンに住んでいて全く違う仕事をしており、今日はVIPサービスのヘルプでレバークーゼンに呼ばれてきたらしい。
ベタな聞き間違いに恥ずかしくなりながらも、運よくタクシーにタダ乗りできたことに感謝しながらスタジアムに向かう。

スタジアムに着くとまだゲートも空いていないのに、ものすごい数の日本人がたむろしていた。国旗をマントのように背負う人、中にはきっちりコスプレをして参上し、狙いどおり(?)海外プレスの注目の的になっている人もいた。
プレス入り口に向かうと、予想以上に多くのテレビ・新聞記者が日本から来ていた。マスコミだけではない。実際に席に座ると、周りには北沢・武田・前園・福田といった懐かしい面々が次々とやってくる。どうやら、この試合の注目度は想像以上に高かったようだ。駅からタクシーをゴチになったVIPサービスの女性のように、別の街からヘルプに来なければならない事情にも納得だ。
記者席ではしばらくブラジル人記者と雑談を楽しんだ。日本の印象を聞くと、
「オーストラリアは当たりの激しいサッカーをするが、日本のサッカーはスピードが速い。おそらくオーストラリアには勝てるだろう。クロアチア戦は難しいだろうけどな。」
Jリーグにやってきた多くのブラジル人選手が語る通り、やはり海外の日本サッカーに対する印象は、「速い」に集約されるようだ。
Q「じゃあ、日本vsブラジル戦はどうだい?」
「コンフェデのことがあるからな。結果は分からないよ。それに日本にはジーコがいる。俺たちの世代は、選手としてのジーコを見ながら育ったんだ。ペレはブラジルの英雄だけど、俺たちのヒーローはジーコなんだ。」
そんな愛されたヒーローだけに、
日本代表監督就任後、この4年間でジーコの頭髪をずいぶん傷つけてしまったことに心が痛む。4年前はもう少しフサフサだったのに…。やはり解任劇などは相当なストレスだったのだろうか。

さて、試合の方は2−2の引き分けに終わった。それはドイツにとって散々な内容だったのだが、にも関わらずバラックは余裕の表情でインタビューに答えていた。もしこれが日本だったら、インタビューを拒否して帰ってしまう選手が多発しそうなのだが…。単純にテクニックや戦術云々ではなく、海外の選手に学ぶべきことはたくさんあるのではないだろうか。そして下は日本の王様のコメントの一部。
Q「今日の試合で出来たことは何か?」
「見てのとおりです。」
Q「宮本選手と何か話していたようですが?」
「それは個人的なことなので、言う必要はありません。」
中田らしいなとクスッと笑えるこんな受け答えも、コメントを取ろうと躍起になっている新聞記者には全く笑えないものだったようだ。バスに乗り込もうとする選手を呼び止めてインタビューする記者たちも、なぜか中田が通りかかったときは声をかけるのに二の足を踏んでいる。そんなとき…
「ヒデ!」と声が飛んだ。
その声の方向を振り向くと、それは前園だった。中田と前園は笑いながら抱き合って、プライベートな話を楽しんでいた。僕はその姿を見て、「ヒデ〜。ゾノ、行くか!」の日清ラ王を思い出してしまった。(なんて呑気なジャーナリストなんでしょ…)
そして帰り道、僕は観戦に来ていたドイツ人夫婦に道を聞き、そのまま試合の感想をしゃべりながら歩いていた。
「今日は2−2だったけど、日本はほとんど勝ったような気分じゃないのか? 3点目が入ってても不思議はなかったしな。」
その通り。日本にとって本当に良い試合ができた。教訓も含めて。
Q「途中、ノボトニーが出てきたよね。彼はあなたたちレバークーゼンの人間にとってヒーローかい?」
「ノーノー。シュナイダーだよ。彼はすごいテクニックを持つ選手だぜ。今日は右サイドバックで使われたけど、本来ディフェンスの選手じゃないよ。」
Q「なんでディフェンスで出たんだろうね?」
「分からないよ。監督がイカれてるからじゃないのか? バラックがレバークーゼンにいた頃は、バラックとシュナイダーの中盤が本当にすごかったんだぜ。たぶんW杯、ドイツは3敗するよ。そして新しい監督がやってくる。」

シュナイダーと言えば、キャプテン翼に出てくるファイヤーショットを打つパワー型FWを思い出してしまうが、現実のシュナイダーは彼とは正反対に正確なキックを得意とするテクニシャンタイプだ。共通点は、ディフェンスには向かないという所だろうか。
それはさておき、やはりスタジアムで見るとダイレクトに面白さが伝わる。後半のドイツ人サポーターの神経質な反応も面白く、柳沢と高原が動き出しでドイツDFを翻弄していることがハッキリ分かり、またテレビの前では絶対に味わえない出会いや興奮がそこにはある。
「世界の友よ、ドイツへようこそ」